繰り返し発生する地震に対し模擬地震動・時刻歴地震応答解析

時刻歴応答解析サポート会員

b s 時刻歴応答解析
h
1.振動解析とは
f

1 最近では、超高層や塔状建物でなくても構造種別や用途によっては、このような振動解析が必要となっています。しかしながら、道具は準備できても、それを上手に使いこなせるかどうかは別な話で、『道具を使いこなす』このことはマニュアルを完備しただけでは実現できず、それらの技術を理解し、多くの経験を積み熟練しなければなりません。当然の事、遠い道のりがあるわけです。そこには、「千里の道も一歩から」まずは、指導書とか教科書とか言われる物がなければなれません。
1 ここで、周りを見渡してみると振動方程式とか理論書と言われるものはあっても「建築技術者のための地震応答解析」と題するような実務者向きの本があまり見あたりません。特に解り易く解説したものとなると皆無に等しいのではないでしょうか。そこでここでは、できるだけ平易に地震応答解析について解説してみたいと思います。
〉

2.振動解析とは
f

1 振動解析概論 1 
構造設計者が建物の構造設計を行う時に大切にしていること、
〉〉 計算が正しくされているか・・・
〉〉 釣り合いは満足しているか・・・
〉〉 応力や変位に異常はないか・・・
〉〉 入力データにミスはないか・・・
さまざまな視点から判断し、最適な構造設計を造り出すことを目指しています。すなわち、大事なことは、計算過程よりはその結果をどう読むか、どう判断するかということです。振動方程式を理解するより、
〉〉 もっと大事なことは・・・
〉〉 出てきた結果をどう読む・・・
〉〉 それを構造設計にどう反映させるか・・・
が大切となります。

h

f

ノート1 振動方程式とは

1 我々が静力学を扱う際、その基本は力の釣り合いであった。この釣り合いを動的な問題にも適応して良いだろうか。これに対する答えはダランベール(D'Alembert)が出している。すなわちダランベールによると、時間とともに変化する外力に対しても、静力学と同じように釣り合いの状態を考えても良い。これをダランベールの原理という。このダランベールの原理を適用すると、運動方程式は次のように書くことができる。
数式(2.1)
ここで、慣性力は慣性力減衰力は減衰力復元力は復元力と呼ばれる力である。これらの力を具体的に表すと、
数式(2.2)
すなわち、慣性力、減衰力、復元力はそれぞれ加速度、速度、変位に比例する力であることが分かる。よって(2.1)の運動方程式は次のように書くことができる。
数式(2.3)
質量は質量、減衰は減衰、弾性係数は弾性係数、動的外力は質点に作用する動的外力である。
一般の振動方程式は(3.1.3)を解くことによって、応答加速度、応答速度、応答変位を求めることができる。しかし、地震応答では外力が直接質点に作用するのではなく、地動の揺れによって建物が応答する。従って、地震を受ける構造物の振動方程式は次のようになる。図2.1に示すように、構造物は地動加速度地動加速度を受けるから
数式(2.4)〉となる
すなわち
数式(2.5)    
よって
数式(2.6)
が地震を受ける一質点系構造物の振動方程式である。通常、地動加速度は不規則波として与えられるため(2.6)式の解析にはコンピュータによる数値計算手法が用いられることになる。
時刻歴地震応答解析

図2.1
図2.1 地動を受ける構造物

ここで、通常使用している静的解析と比較してみる。静的解析では、建物に作用する最大荷重を求め、建物の弾性力と釣り合うとして解析する。すなわち、外力は時間とともに変化するのでなく、作用する最大荷重に対して、建物が変形することによって発生する弾性力(建物剛性×変位)と釣り合うとして解析している。
数式

f

h

3.固有値・応答スペクトル
f

1 弾塑性地震応答解析に取り組む前に、
〉〉 入力地震波の大きさをどのくらいにするか・・・
〉〉 上部構造の建物のモデル化をどうするか・・・
〉〉 固有値とか、減衰とか、応答スペクトルはたまた縮合マトリックス
など覚えなければならないことがたくさんあることは事実です。では、手始めとしてどの振動の本にも最初に載っている固有値・応答スペクトルについて説明します。

表

それでは、ある基本パターンの波を考えてみましょう。
〉 t1を周期とするsin波を考えます。
1

〉 t2(=t1の半分)の周期をもつsin波を考えます。
2

〉 同様にして、t3、t4、・・・・・tnの周期をもつsin波を考えます。
これらをすべて''重ね合わせてみる「ある時刻のときの振幅を、全て合計していくこと」と、次のような、複雑な波が得られます。
3

何を意味しているのかというと、これらを逆に辿っていくと、どんな複雑な波も、基本パターンの成分に分解できます。複雑な挙動も、基本パターンの集合体というわけです。すなわち、周期の異なるsin波を重ね合わせると複雑な波が得られ、逆にたどると複雑な波や挙動はいくつかの基本パターンへ分解されるということです。基本パターンという言葉がでてきましたが、これと建物の固有周期と、どう繋がるのか?結論を先に言うと、基本パターンが固有ベクトルでその周期が固有周期です。

② 固有ベクトル
f

1 ここで、固有ベクトルとは、建物のもつ固有な振動形のことです。この固有な振動形とは、2階建の建物を例にすると建物を串ダンゴ型の振動モデルに置き換えてみます。このとき、床レベルにその層の重量を集め一つのダンゴにし、柱の剛性を一本の串でモデル化したものを質点系の振動モデルと呼んでいます。

1

まずこのモデルにおける建物固有の振動形とは何か?このような串ダンゴの模型を作ったとして次のような実験をしてみます。まず、ダンゴの部分を両手で持ち、左右に少し水平変位をさせます。その後パッと離します。

2

当然振動を始めます。普通は、かなり複雑な振動になります。しかし、初期から一質点目の変位と二質点目の変位がある値になったときに限って正常な振動をします。正常な振動とは、図3において矢印の点がまったく移動しないで、左右対象のきれいな振動をします。

3

1 左右対象に振動しているということは、まず第一に、一質点目の水平変位と二質点目の水平変位の比が、いつの時刻をとっても一定であるといえます。第二に、どの質点も同じ周期で動いているということです。
1 二質点目の水平変位をY軸にとり、時刻をX軸にとると、cosカーブを描くのがわかります。 一質点目も同様に描けて、どちらもそのカーブの周期は同じということです。各質点の水平変位の比が一定で、どの質点も周期が同じという特別な状態のときを示しています。この特別な状態のときの周期を固有周期と呼び、水平位の比(無次元量)を固有ベクトル又は固有振動形といいます。

4

図4のように同一方向に変形させて離すことにより、定常な振動を始める状態のときも同じ特別な状態になります。
〉〉 この状態のときを一次の固有周期と呼びます。
〉〉 さきほどの状態を二次の固有周期と呼んでいます。

今、二質点のモデルだから二次までしかありませんが、3質点であれば、 一次、二次、三次の3つの固有値が存在します。どのような振動形かは後で調べてみてください。

h

f

ノート2 固有周期 固有ベクトル

Ⅰ 二質点系モデル
1 集中質点が複数ある場合について考える。これは多層構造物のモデル化であり、各階のスラブに質量が集中しているものとしてモデル化した場合である。最も簡単な例として図3.4に示すような二層の構造物をモデル化した2質点で説明する。ただし、以下の式の展開においては、瞬間的な時間での釣り合いをえているため、正確な表現としては 1あるいは 2となる。しかし、ここでは式が煩雑になるため 3については省略することにする。

2
運動方程式はダランベールの原理より
3(3.2.33)
と書ける。ここで、4はそれぞれ慣性力、減衰力、弾性力である。
具体的に表現すると慣性力については
5(3.2.34)
と書くことができ、マトリックスで表現すると
6(3.2.35)
もしくは太字を用いて7と書く場合もあり8を質量マトリックス9を加速度ベクトルという。 弾性力は
10(3.2.36)
と書くことができ、
マトリックスで表現すると、
11(3.2.37)
となる。ここでも太字を用いて表現すると、11と書き12は剛性マトリックス13は変位ベクトルという。また減衰力は弾性力の表現とまったく同じ形で書くことができる。
すなわち
14(3.2.38)
もしくは、 14となり 15は減衰マトリックス15は速度ベクトルという。これらの関係を(3.2.33)式に適応すれば次のような運動方程式を得る。
15 (3.2.39)
もしくは、〉16〉(3.2.40)

Ⅱ 多質点系モデル
先にも述べたように、自由振動方程式から固有振動数を求める場合は減衰項を無視し、以下に示す 1型の自由振動方程式で考えればよい。すなわち
〉1 〉(3.2.41)
(3.2.41)式はすでに1質点系で得られた解を利用すると調和振動を仮定して、
〉2 〉(3.2.42)
とおく。ここにAは振幅ベクトルである。従って加速度ベクトルは2階微分すると
〉3 〉(3.2.43)
となる。(3.2.42),(3.2.43)を(3.2.41)式に代入して、
〉4 〉(3.2.44)
を得る。(3.2.44)式が意味を持つためには次の関係が成立しなければならない。
〉5 〉(3.2.45)
ここで、先に運動方程式を導いた2質点系で考えると、(3.2.44)式は具体的に次のようになる。
〉6 〉(3.2.46)
ここに、7 である。
さらに(3.2.46)式は、
〉8 〉(3.2.47)
と表現できる。

〉

ここで実際に2質点系の次の例題を考えよう。

h1

運動方程式
2

固有方程式
3  

4  
となり、行列式を計算すると

5

6

1質点系の場合と異なる点は固有振動数が2種類求められる

2質点系モデルの固有振動数は2種、3質点系モデルでは3種となり、質点の数だけ固有振動数が求められる。

1 通常一番低い振動数から一次固有振動数、二次固有振動数、三次・・・、と呼ばれている。

これらの固有振動数にはどのような意味があるのだろうか。 これを調べるために次のような計算をしてみよう。先の計算(これを数学では固有値問題という)で得られた円振動数をそれぞれ(3.2.48)に代入する。すると未知数は変位成分xだけになることがわかる。具体的にはまず、一次固有振動数が求められた2 を(3.2.48)式に代入すると、
3

4

今の問題の場合は
5

6

hh7

h

f
h

③ RTと応答スペクトル

f

〉〉 振動特性係数Rtを計算するときに使う建物の固有周期の略式算は・・・

T=h(0.02+0.01a)

RC造であればT=0.02hとなり、5階~10階以下の建物だと0.3秒~0.6秒前後の周期となります。この付近の固有周期を持つ建物は、地震時に大きな力を受けることが知られています。このことを示す図として、[ある地震波がどのような建物に大きく影響を及ぼすか]を示す応答スペクトル図というのがあります。有名なエル・セントロ地震波による応答スペクトル図では、周期が0.5秒~0.6秒の建物がおおきな影響を受けます。周期が0.5秒~0.6秒の建物とは、高さ25メートル~30メートル位の建物に相当しますから、8階~10階建ての建物となります。このように、多くの地震波形が、中層から高層の建物におおきな影響を与えることが分かっています。すなわち、5階~10階の建物の構造設計をすることは、地震の影響を受けやすくなるため、非常に難しいということです。静的な基準に慣れてしまうと、見落としてしまうのが、この辺のところです。構造設計の原点に立ち戻る意味でも、地震応答解析を勉強することは大変大事なことなのです。

1

2

ここで、振動解析の理論によれば、一質点系(平屋の建物)の弾性応答値は建物の「固有周期」をパラメータにしてあらわすことができます。そこで、下の図にあるようなモデルを考えます。これは、固有周期が短い順に左側から一質点モデルを並べ(バネの長さが短いものはバネ定数が大きくなり固有周期が短くなる)、これらに同じ地震波を作用させてその応答の最大値を調べようとするものです。

3

この結果をプロットしたものが『応答スペクトル』で、横軸に固有周期を、縦軸には応答値の種類に応じて加速度・速度・変位の最大値をあらわします。これらがそれぞれ、『加速度応答スペクトル』『速度応答スペクトル』『変位応答スペクトル』のように呼ばれています。
加速度応答スペクトルの例を書いてみます。

4

実際の加速度応答スペクトルは先のようななめらかな曲線になるわけではなく、先の例のようにもっとギザギザになりますが、これはその外郭線をなぞったものだと考えてください。また、応答スペクトルは通常「減衰定数」というものをパラメータにし、「減衰定数がXXの時の応答スペクトル」というように表現されます。
また、応答スペクトルの便利な点は、
〉①応答スペクトルを見れば、複雑な数値解析を行なわなくても建物の最大応答値が分かる。
〉②応答スペクトルを見れば、その地震波にどのような周期成分が含まれているかが分かる。
の2点です。
 また、地震動の周期と建物の周期が近づくと、「共振」という現象によって加速度応答が大きくなります。ということは、加速度応答スペクトル上で応答値が大きくなっている部分は、地震波の中に「そのあたりの周期の成分が多く含まれている」ことを教えてくれます。 (たとえば上の図でいえば、「この地震波には周期 0.5 から 0.8 秒程度の成分が多く含まれている」ということになります。) さらに、『どのような周期成分が多く含まれているか』ということは、『どれほど複雑に見える波でも、それを一定の周期・振幅・位相をもった正弦波(サインカーブ)と余弦波(コサインカーブ)に分解することができる』という原理があるからです。この「波をときほぐす」手法を「フーリエ解析」、その結果をグラフにあらわしたものを「フーリエスペクトル」と呼びます。ですから、「この前ドコソコで起きた地震はどのような性状のものだったのか」ということが知りたいのなら、ドコソコで記録された地震波の応答スペクトルを見ればよい、ということになります。

そこで、過去記録された地震波の応答スペクトル(ここでは『加速度応答スペクトル』)をたくさん集めて比較してみると、そこに一定の傾向があることが分かっています。それが『振動特性係数(Rt)』です。 すなわち、振動特性係数とは、集積された加速度応答スペクトルのデータを分析して定式化したものなのです。

5
振動特性係数(Rt)

このグラフは、加速度の最大値を 1.0 として基準化していることを除けば、加速度応答スペクトルそのものです。 この 1.0 というのは、許容応力度計算法でさだめている標準的な加速度の値に相当します。ここで、標準的な加速度の値とは、下図となります。

6

1 1995年記憶に新しい阪神淡路地震が生起しました。この阪神淡路地震は、数百年に一度の大地震といわれています。阪神淡路地震の応答スペクトルを描くと、やはり周期が0.3~0.6秒で最も卓越している傾向にあります。この地震もエル・セントロ地震波と同様に5階~10階建ての建物にはきびしい地震だったのです。さらに、この地震では814ガルものおおきな加速度が計測されました。
(Galは、地震波の加速度単位のことで、cm/sec2)

7

1 阪神大震災は800ガルを超える値が観測されました。関東大震災の300ガルから400ガルと比較して2倍以上の力が作用したと思ってしまいます。阪神淡路地震とは、そんなに大きな地震波だったのでしょうか。まずは、地震波計より800ガルの最大加速度を記録したとします。この加速度がどこで観測されたものかで変わります。どの場所の     

       地表面での?
       地下階での?〉加速度か
       最上階での?

ということを知らなければなりません。 この場合は、おそらく地表面の加速度地震波だろうと思いますが、建物の2階以上で観測されたとすると、それは応答加速度ということになります。1階に入力される地震波の加速度に比べると、当然最上階の応答加速度は大きくなります。 一般的には、建物が弾性挙動するとして、入力地震波の最大加速度の2.5倍から3倍の応答加速度になると言われています。 もちろん、建物の固有周期が長くなれば、この倍率が小さくなるので一概に言えない話しではあります。

■《東北大学の9階建(SRC造)の研究棟で実測された例だと、最上階の最大加速度は、1階のそれの約4倍になっていました。》■

次に、地震波の最大加速度と地震の強さは比例するかということですが、阪神大震災での800ガルも大きな値だけれど、それを超える地震波もいろいろ観測されています。 例えば、

8

などの大きな地震波が観測されていますが、いずれも阪神大震災のような壊滅的な被害はありませんでした。結局、最大加速度と被害は、比例しないようです。

〉 力と加速度の関係・・・

1

この式は、通常水平震度0.2で計算しているところがその9倍の水平震度1.8という力が加わっていることとなります。ここで、《新耐震設計法の必要保有水平耐力の考え方として、大地震時の標準せん断力係数Coを1以上にしなさい》となっています。 このCo≧1とは、一質点系で考えた場合の応答加速度、約1000ガル以上を想定していることになります。では、ロサンゼルス地震では、1800ガルの大きな力がかかっていることとなりますが、建物の被害は阪神淡路地震ほどではありませんでした。たしかに、解りにくい話なのですが、これが静的な力と、動的な力との違いなのです。ここで、一次設計や二次設計は静的解析です。じっくり力を加えている状況で計算しています。ところが動的解析は、あくまでその力(加速度)は一瞬の間の話です。

1 加速度と速度 1 

車を運転した経験はありますね。止まっている状態の車のアクセルをいっぱい踏んで、急発進します。最初の一瞬では車はほとんど動いてないし、スピードもゼロに等しいですよね。最初の加速度を維持して何秒かたつと車のスピードもどんどん上がってくると同時に移動距離も増してきます。すなわち、車の仕事量としてはその加速度の大きさだけでなく、それをどれだけの時間持続したかということに比例します。

1 (加速度)×(それを持続した時間) これが動的なエネルギーの大きさと言うことになるわけです。どんなに大きな力でも一瞬しか作用しなければ、相手(建物)にエネルギーを伝える(影響を与える)ことはできないということです。最大加速度だけでは、その地震波のエネルギーは読みとれないとすると、

〉2

すなわち、速度がエネルギーの大きさ『地震の強さ』を示すことになります。

結局、地震波の建物に与える影響を考えるときは、最大加速度ではなく、その地震波の最大速度はいくつか?が重要となります。このことは、高層建築物の動的解析をする場合の規定(地震動の強さは、それらの波形の最大速度値によって基準化する)によっても理解できます。特に高層建物では、速度を基準に地震波を考えるので、なおさら重要となります。

ここで地震波の速度とは、

〉加速度波形の面積(正負を考慮して)の大きさを時間軸に対応して表した波形

速度の単位は、カイン cm/sec であり、結果として時刻歴地震応答解析では、

3

となるわけです。ここで、基準化とは

1 地震波の基準化 1  
1 ここで、地震波を500ガルで基準化する、ということは最大加速度値が500ガルとなるように波形の大きさを比例的に増減することになります。

〉例えばOSAKA-205という記録された地震波があります。

4 

この 地震波の最大加速度は25ガル、この波形を最大加速度500ガルまで増幅する ためには、現波形の振幅値を全て比例的に20倍にします。このように、目標の最大値になるように、源波形を比例的に増減することを基準化するといいます。速度で基準化するということも同様です。先程のOSAKA-205の最大速度は5カインですが、これを例えば50カインに基準化するということは10倍すればよいとなります。この時、応答解析するための入力地震波は加速度波形です。速度で基準化して10倍とする場合、速度波形を求めて10倍するのではなく、加速度波形を10倍して建物に作用させても同様な結果が得られます。速度で基準化してその倍率を求め、その倍率を加速度波形に掛ける方法が一般的です。EL CENTRO 1940 NSの最大速度は33.45cm/sec 50cm/secに基準化するためには、 50/33.45 = 1.495倍すればよいとなります。 

 さて、過去に記録されている有名な地震波について、最大加速度と最大速度を表にまとめてみます。

各地震波の最大加速度と最大速度
5

この表からわかるように、最大加速度と最大速度は比例関係がありません。
加速度と速度は比例関係にはないが、ただ一つの目安として1/10 の関係の地震波も多くある、ということを覚えておくのは何かと役に立ちます。
〉

④レベル1・レベル2の地震動
f

通常の建物を構造設計するときに

〉中地震を想定した一次設計時は標準せん断力係数が0.2
〉大地震の二次設計時は、標準せん断力係数が1.0

として設計しています。

地震応答解析するときには、同じように2つの段階に分けています。呼び方は違って、レベル1、レベル2 と呼んでいます。一次設計、二次設計は設計手法全般を指しているのに対して、レベル1やレベル2は正確に言うと[レベル1の地震動][レベル2の地震動]と呼び、地震動の強さを指しています。

b レベル1の地震動とは、当該建築物の耐用年数中に一度以上(数十年に一度)受ける可能性が大きい地震動を指し、この地震動に対して、主要構造体は概ね弾性的な挙動で応答することを目標とすること。

b レベル2の地震動とは、当該建築物の敷地において、過去及び将来にわたって 最強と考えられる地震動を指し、この地震動に対して建物は倒壊したり、あるいは外壁の脱落等の人命に損傷を与える可能性のある破損を生じないことを目標とすること。

87

すなわち、保有水平耐力計算法の考え方と基本的には同じとなります。静的に解析するか、動的に解析するかの違いはあっても、構造設計する際に関 してのスタンスは同じと考えます。しかし、地震動の大きさは抽象的な表現なので、これだけではどのくらいの地震力を考えてよいかはっきりしません。このようにはっきりしないために、当初は設計用最大速度値や加速度値が設計者によりまちまちだったことがありました。設計において、外力の評価は極めて重要です。そこで、後に、具体的な数値で示すようになりました。

具体的な数値とは、
目安として、

〉レベル1の地震動に対しては、25カイン以上で基準化した地震波を想定
〉レベル2の地震動に対しては、50カイン以上で基準化した地震波を想定

しましょうということです。
ところが、

1 阪神大震災の90カインはレベル2の地震動50カインの2倍近くになります。

過去の解析では、おそらく90カインの地震動を想定しての設計はされていなかったと思います。 それからすると、想像を超える大きさではあります。少なくとも神戸地区においては、90カインという速度の検討が必要になってくるのではないのでしょうか。結局25カインや50カインは固定的なものではないということです。
実は、先程の話しも一つの例として打ち出した数値です。もう少し正確に言うなら、先程の数値の例は、支持層は東京レキ層とし、剛強な基礎構造を有する建築物での地表面における最大速度という仮定条件がつきます。このように、時刻歴地震応答解析では、構造技術者にある程度の自由度を与えています。 構造計算屋ではなく、構造設計者を対象にしています。すなわちこの建物をどう料理するかという自分自身の設計基準を明確にもつこと及びこのスタンスを第三者に納得させられるだけの明確な知識も有していることにより、しっかりした設計思想を話すことができるなら、20カインや40カインでも認めますよ」となっているのです。

ここで、Rtには『ただし、特別の調査又は研究の結果に基づき、地震時における基礎及び基礎杭の変形が生じないものとして構造耐力上主要な部分の初期剛性を用いて算出した建築物の振動特性を表わす数値が同表の式によって算出した数値を下回ることが確かめられた場合においては、当該調査又は研究の結果に基づく数値(この数値が同表の式によって算出した数値に4分の3を乗じた数値に満たない時は、当該数値)まで減じたもの』と記述されている部分ですが、以下の10階建てのRCマンションを固有値解析した例で説明します。

88

この場合、建物高さから計算した値 Rt = 1.0 から 精算値 Rt = 0.62 が3/4を下回っていることからこの場合、現状で認められるのは、Rt = 0.75までとなります。このように、T=h(0.02+0.01α)による固有周期の推定は、安全側を考慮して実際より短周期となります。

89

〉
⑤外力分布とAi
f

建築構造関連の法令の解説書として「 2007 年版 建築物の構造関係技術基準解説書」という本(以下、「技術基準解説書」)が国交省から出されていて、その中に、「 Ai 分布にもとづく外力分布を保有水平耐力計算時にも用いればよく・・・」というようなことが書かれています(P.306)。この「外力分布」あるいは「 Ai 分布にもとづく外力分布」というものについてですが、たいていの構造計算書の「設計地震力」の項の出力は下のような形式になります。

90

この表のどこにも「地震時の外力」の値は登場しません。(地震力は右表Piの値で構造計算書には明記されない)
構造設計では Qi (層せん断力)の値を使って構造計算します。すなわち、 建築構造計算では建物に地震力が作用している状態を「各階の床が地震力を受けて水平方向に変位している」と考えます。そしてこの時、各階の床に作用している地震力は上の階にいくほど大きくなり、上の階ほど変位が大きくなります。建物の基礎に入力された地震力が上の階に向かって増幅されるためです。
一方、各階の床はその直下の柱によって支持されていますから、床の変位によって柱に何がしかの力が発生します。これを階ごとに集計したものが「層せん断力」です。さらに、建物を全体として見た場合、基礎位置において固定された「片持ち梁」と考えることができます。そして、すべての力は最終的には基礎に到達します。したがって、地震力も順次下の階に伝達され、それに応じた層せん断力が発生します。結論をいうと、「地震の外力は上の階にいくほど大きくなり、層せん断力は下の階にいくほど大きくなる」のです。

91

ここで最初の「設計地震力」の表に戻りますが、この Ai の欄を見ていると、つい、これこそが「地震時の外力分布」をあらわすものではないか、と思いたくなります。この表の中で「上にいくほど大きくなっている」のはこの値だけだからです。しかし、それが間違いであることは、この表中にある計算式から(あるいは建築構造の初歩知識により)明らかでしょう。建物の重量にこの値をかけたものが「層せん断力」になるのですから、Ai とは「外力の分布」ではなく「層せん断力の分布」をあらわしているのです。 「保有水平耐力計算法」は、振動解析技術のエキスを利用した計算方法です。この振動解析を行う場合、一般的には建物を質点系モデルに置き換えるのでした。さらに、五質点系のモデルならば、それは合計五つの(水平方向にかんする)自由度をもっており、その自由度の数(つまり質点の数)にひとしいだけの『固有周期』と『固有モード』をもっているのでした。
『固有モード』は別名『固有振動形』とも呼ばれるように、各次の固有周期における質点の相対的な変位量 注) をあらわしたものと考えることができますが、下の図に見るように、これには以下のような特徴があります。

92

例えば、釣竿を手に持って垂直に立て、手を動かしてそれを揺らした状態を考えてみると、下図にあるように、釣竿が短い場合は手の動きと同じ方向に「すなおな揺れ方」をします。しかし釣竿が長くなると、根元に近い部分はそのまま手の動きについてきますが、先端の方は遅れてついてくるため、手の動かし方によっては全体として「ヘンな揺れ方」をすることがあります。

93

この『すなおな揺れ方』が『一次モード』です。そして、釣竿が長くなるにつれてなぜ『ヘンな揺れ方』が出てくるのか、それはそこに『高次(二次以降の)のモードが混ざってくる』からです。釣竿の長短とはもちろん固有周期の長短をあらわして、『短い釣竿』とは『固有周期が短い低層の建物』、『長い釣竿』とは『固有周期が長い高層の建物』のたとえとなります。ここから、『固有周期が長い高層の建物には高次のモードの影響があらわれてくる』ということですが、これをもう少し一般化すれば次のようなこととなります。各次の固有モードとは質点系の『行動パターン』なので、質点系の『ふるまい(振動)』は、必ずこれらの『行動パターン』の組み合わせであらわすことができます。つまり、各次のモードの影響度をあらわすなんらかの係数をもとめ、それを固有モードにかけて全次数分足し合わせれば、それが質点系の振動になるのです。これが『モード合成法』別名『モーダル解析』で、具体的な計算としてはつぎのような図になります

94

上の図にある「β1・β2・β3」が先に述べた『各次の固有モードの影響度をあらわす係数』(刺激係数)ですが、上図の下段にあるような、『各次の固有周期をもった等価な一質点系の応答値』でした。そしてこの『等価な一質点系』とは、下図にあるような、『等価な質量と剛性をもち、その次数に固有の振動形を保ったまま振動している質点系』になります。

95

これは『一質点系の応答値』なのですから、『応答スペクトル』によってもとめることができます。
すなわち、質点系の応答値は、

〉①固有周期
〉②固有モード(振動形)
〉③応答スペクトル

の三点セットがあればもとめられる、ということになります。また、次数が大きくなればなるほど、そのモードが応答値に与える影響は少なくなるという性質があります(だから「建物の一次固有周期」のことをたんに「建物の固有周期」と呼んでいるのです。) 固有周期の短い低層の建物にも、(平屋でない限り) 二次や三次の固有モードはありますが、それらの影響度は一次のモードに比べて相対的に少なく、結果的に無視できる程度のものとなります。場合によっては、各次数の足し合わせというような面倒なことを行わず、一次モードだけ考えればいいことになります。これに対し、固有周期の大きい高層の建物の場合は、一次モードだけ考えていたのでは「建物本来の揺れ方」を把握できません。そのため、二次とか三次まで考慮する必要があります。固有周期の長い高層の建物では二次や三次のモードも無視できなくなるということから、「保有水平耐力計算法」は、『二次や三次のモードが無視できなくなるような高層の建物には適用できない』ということになりますが、これが、「保有水平耐力計算法」の適用を高さ60mまでの建物に限定し、それを超える高層建築物については振動解析を行うこと、としている現行規定の根拠となっています。

〉
4.減衰
f

b 減衰定数は3%等といいますが、RC造の場合にその値を使います。
この図における入力加速度は、ある加速度を最初に△t時間だけ加え、その後はゼロとした衝撃波を作用させました。前にお話した自由振動させて、その状態をグラフにしたものです。

96

97

変位応答の振幅の減衰のしかたは、3%の減衰の場合、一周期で振幅比が約83%になるくらい減衰します。
振幅が17%ぐらい小さくなります。5%の減衰の場合は、一周期ごとに振幅比が73%ぐらいになります。

b 建物により固有周期がそれぞれ異なりますが、固有周期の大小に関係なく一周期ごとに先程の比率で振幅が減少するということです。この応答図から動的解析の特徴は、まず第一点は、力(衝撃波)として作用したのは最初の△t秒間だけで、その後の時間帯では力を作用していないことです。ところが、力が作用していないときでも、振動しているから変形が生じているということが静的解析との大きな違いです。静的(弾性)解析は、力と変形が比例する。当然、力がなければ変形もなしってことです。もう一つは、その力(衝撃波)の影響は時間とともに(一周期ごとに)小さくなっていくということです。この現象は減衰がもたらすものです。
b 減衰定数の違いにより、応答値がどのように変わるかを調べます。
まず5階建(5質点)の建物を想定し、エルセントロ NSの地震波を入力し、建物の減衰定数を0%のときと5%のときで、応答結果を比較しました。結果、減衰0%の最大応答値に対して、減衰が5%のときは、加速度応答、変位応答共、最大値が40%以下の応答値に減少しました。

その他の建物でも同じように減少するのでしょうか。残念ながらそう単純には言えません。例えば、減衰と応答との関係は、先に示した応答スペクトルで表されます。この図は、ある固有周期をもつ建物(X軸)が、○○波の地震波を受けたときに、どのような最大応答値(Y軸)を示すかを減衰定数パラメータにしてプロットしているのです。

98

すなわち、まず減衰によってどのように応答が変わるかを、この図は示しています。この図からもわかるように、一概には言えないということが理解できます。固有周期により応答の差はバラバラです。この図は○○波の地震動の場合で、当然別の異なる地震波を入力すれば、この応答スペクトルも異なった図を描くことになります。すなわち、最初に実験したシミュレーションは、ある地震波における特定の値ということになり、振動解析の場合、入力地震波が異なれば当然応答値も異なるし、また固有周期に関係する建物の剛性評価が違えば、応答結果にも影響します。
そこで、評定物件などは3波以上の地震波で検討することとあります。特性の異なる3波以上ということです。一波だけの結果で建物の挙動について判断してはいけないということになります。

〉先程の減衰定数5%というのは、内部減衰のことを指します。
〉その他に履歴減衰や逸散減衰があります。

建物を自由振動させると当然振動し、しばらくすると静止し、永久に振動したりはしません。それが減衰となります。特に内部粘性減衰とは、バネの材料内部の分子間摩擦によるものです。(柱・梁・壁など)振動エネルギーが摩擦による熱エネルギーに変わって、これと同じことが建物の躯体内部でも起こっているわけです。内部減衰と呼んだり、粘性減衰とも言ったりします。その他の減衰として、履歴減衰があります。その履歴減衰とは、今後免震構造や制震構造をやる上では、大変重要な要素となります。

h

f
h

ノート 減衰振動とエネルギー吸収
f

1. 非減衰振動と減衰振動

非減衰振動時においては、

99

2. 減衰振動時(基本的なVoigt型モデルとする)

w-1

この時の運動方程式は
w-2
調和振動時の荷重変位曲線を描くと図1となり

w-3

図1の形状は座標変換により、図2に描かれる楕円に変換でき、この楕円の面積が1周期の間で減衰で吸収されるエネルギー量を表す。
w-5
またその時のエネルギー量は
画像の説明ここでエネルギー損失比を考える。減衰エネルギーとは1リサイクルの振動の間に損失されるエネルギーともいえる。
w-6
ここで、 及び が材料に依存する定数と考えるならば、 を大きくすることは固く使うことと考えられる。某大学におけるH15.11.15の振動実験において、材料は同じSS400で製作した2体の実験モデルにおいて、固いモデルの減衰定数は軟らかいモデルの減衰定数より大きな値を示した。

w-7

すなわち、同一の材料であっても、固い建物とすることで減衰定数を高く見込むことが出来る。

3. 減衰振動 2(Maxwellモデル)

w-8

この場合、ダッシュポットとバネ(弾性系)に作用する力は等しい。
w-9
w-10

参考資料

座標変換

w-11

w-12
h

f
h

b 履歴減衰(弾塑性解析)
[材料の塑性化による履歴ループでエネルギー吸収が行われ、減衰効果となる]
b 弾性材を(図1の)①まで変形させ、その後変形を解除させたら、自由振動を起こします。 この時、内部減衰(粘性減衰)がなかったとしたら、同じ変形分反対側に移動し、①-②間を永久に振動します。

w-13

次は塑性化した材について、同様に行ってみます。
・まず、(図2の)①まで塑性変形させます。
・その後、変形を解除し、自由振動させます。

w-14

このとき内部減衰がなかったとしたら、どこまで振れるか(図3の)③の点はどのようにしてきまるかを考えてみます。

h・先程と同様に反対側に同じ変形のところまで、

w-15

h・この場合は変形量でなくエネルギーで考えます。
まず①の点から②点まで移動することにより、構造体が吐き出したエネルギーは①②①’で囲まれる面積となります。そして、それと等価なエネルギーがたくわえられるまで変形がすすみます。図3の)①②①’で囲まれた面積と等しくなるように、②③③’の面積をつくります。振幅はだんだんと減少していきます。それは振動するたびにエネルギーが逃げていきます。先程の②③③’のエネルギーが次のサイクルでは、③④③’のエネルギーしか伝えてないことになります。

w-16

「②③③’-③④③’=②③④であるから、②③④で囲まれたエネルギーが消えてしまいます。この②③④を損失エネルギーと呼んだり、冒頭で述べた[エネルギー吸収が行われる]等の表現になります。この損失エネルギーがあるから、ループを描くたびに振幅が減少していくわけです。

・減衰定数ですが、一周期ごとにどのくらい振幅が減少するかわかるので、当然それから減衰定数も導き出せます。その材の履歴特性(復元力特性)がわかれば、履歴減衰の大きさが求まります。
・一般的には振幅の減少度合から求めるのではなく、損失エネルギーから求めます。
・通常履歴特性は実験より求めますが、一般の繰り返し加力試験においては強制的に外力を加えて行うため、履歴ループは図5のようになります。
・図6のようにモデル化され、この斜線部分が①サイクルの損失エネルギーです。

w-17

w-18

この損失エネルギーが大きい程、減衰が大きくなるわけです。この減衰の度合を内部減衰と等価な形に表したのが、等価粘性減衰定数(heq)といいます。S造では2%,RC造では3%と言いますが、そのような%で履歴減衰の度合を表わしたということです。

等価粘性減衰定数を求める式は

w-19
すなわち、heqのeqは等価と言う意味です。

・履歴型ダンパーもいろいろ開発されていますが、目的はこの損失エネルギーが大きくなるように特性をもたせることです。
・鋼棒ダンパーや鉛ダンパー等は、どれもBi-Linear型に近い履歴特性を示すので、損失エネルギーを大きくするためにはダンパーの降状点を上げることです、ダンパーの降状点を上げると建物に入力するせん断力が大きくなってしまったりするので、ダンパーの降状点の決定は、単純に上げれば良いと言うものではなく、注意が必要になります。

〉 履歴減衰と免震構造とはどのような関係があるのでしょうか・・・

b 免震層には積層ゴム(アイソレータ)が配置されるため、変形量が大きくなる。そこで少しでも応答量を小さくするために、ダンパー効果は欠かせません。ゴムと言うと弾性的挙動をイメージし、先程の履歴減衰のようなダンパー効果は期待できないように思えます。ゴムそのものは履歴ループをほとんど描きません。ここでいうゴムとは天然ゴムのことを指しています。履歴ループをほとんど描かないということは、ダンパー材を別に配置して、減衰を得ることになるわけです。

天然ゴム系免震ゴムは各種ダンパーと組み合わせて用います。

ダンパーとして最もわかり易いものに鋼棒ダンパーがあります。
鉄筋を太くした特殊鋼棒で、直径が30㎜~150㎜のようなものです。鉄筋の両端を上下階で固定します。注意が必要な点は、水平変位が大きいので、その変形に追随できるように固定部分の設計がされています。当然、この鋼棒は、水平変位に対して塑性化して、履歴ループを描きます。鋼棒ダンパーはどこにでも簡単な装置で取り付けられるし、値段も安いし、扱い易い装置になります。ゼネコン各社では、必ずと言っていい程、免震構造の開発メニューの中に加えられています。
また、このようなダンパー設置を不要にできるものも開発されています。例えば、先程の鋼棒ダンパーのかわりに鉛材を用い、天然ゴムと一体化した鉛プラグ入り積層ゴム(図1)とか、高減衰積層ゴム等も開発されています。
 

w-20

b 高減衰積層ゴムとは、天然ゴムに粘性材に相当するものを特種配合して、減衰機能を発揮させたものです。図1の鉛プラグ部分がないだけのもので、復元力特性は図2のようになります。

w-21

図2の履歴ループの範囲内では塑性化はしていません。あくまでもゴムは弾性挙動をしています。わかり易くイメージで表現するなら、こうです。例えば、セーターを引張ると伸びるし、離すともとに戻る。この毛糸は弾性挙動を示すゴム分子の組織体のようなもの、と考えてほしい。そして毛糸と毛糸のすきまに粘性体をからませる。これにより引っ張って離してもすぐには戻らない粘性減衰的挙動を示します。しかし、毛糸そのものはあくまでも弾性挙動をしているわけです。また毛糸と毛糸が擦れるために摩擦が生じます。これも減衰量として寄与するから、高減衰ゴムの履歴はこれら全部が複合した形で現れます。

b 高減衰積層ゴムのせん断応力・歪特性図は次のようになります。(図3)。ここで弾性的挙動としては、せん断ひずみが200%~250%になるまで大丈夫です。その後除々に歪硬化を起こして、最後は約400%~450%で破断します。

w-22

せん断歪が250%になるまでは弾性状態です。この250%が大事な数値です。積層ゴムが許容できる水平変位の限界がこれよりわかります。例えば、ゴム総厚が16cmとすると、この値に250%を乗じることにより約40cmとなる。これが線形限界水平変位で、積層ゴムの設計変位となります。ここで言うゴム総厚とは、鋼板の厚さは含みません。

h(ゴム総数)×(一層分のゴム厚さ)

硬質のゴムはこれより小さくなるので、250%は一つの目安として覚えておくといいでしょう。

高減衰積層ゴムは、履歴減衰を等価粘性減衰定数(heq)で15%以上持ちます。前回、履歴ループによる損失エネルギーについて話しましたが、積層ゴムの水平変形が大きくなれば履歴ループも大きくなり、損失エネルギーも大きくなります。そこで等価粘性減衰定数も変わります。減衰定数は一定ではなく、履歴ループの大きさにより変わります。そこで考えておくべきことは、どの変形量(せん断歪量)のときの等価粘性減衰定数を用いるか、ということです。例えば、レベル2の地震動に対して、免震層のせん断歪が最大で200%を示したとすると、せん断歪を100%のところの等価粘性減衰定数を考えてみます。200%でなく100%にした意味は、最大値は一瞬のできごとで、応答の支配的部分は、それより小さなところにあるとの考えかたです。いづれにしても、構造設計者は常にこれらのことを意識する必要があります。

b 免震層における内部減衰定数の考え方に、通常は0%と考え、考慮するのは履歴減衰のみと言うことを覚えておきましょう。

h
5.剛性
f

1.弾性
弾性剛性の範囲内の振動に関しては、柱梁の部材レベルで振動解析したときの各層の時刻歴水平変位の結果と、串だんご系にモデル化したときの時刻歴水平変位は、同じ値になると言うことでした。この場合は、串だんごにモデル化したというよりは、数学的に処理されたものということの方が 誤解がないかもしれません。この時の剛性評価は、縮合した弾性剛性マトリックスを使用しています。剛性は、柱梁で構成される立体モデルをそのまま各層の水平変位成分の自由度のみに縮合しただけなので、完全に等価なものです。これは、電卓をたたいて得られるデータではありません。構造計算するソフトが自動的に出力してくれるものです。例えば、一貫評定プログラム(一次設計立体解析一連計算システム)や荷重増分解析プログラム(静的弾塑性解析システム)を使用すると、この縮合弾性剛性マトリックスを計算してくれるので、手入力せずに、振動解析システムへの入力データが出来あがります。一次設計ソフトのデータ入力時には、柱梁はもちろん、詳細なデータが入力される。それより建物全体の剛性マトリックスが組み立てられ、応力解析が行われているわけです。この、全体剛性マトリックスをリダクションすると縮合された弾性剛性マトリックスが得られるから、当然必要な機能のひとつです。(リダクションとは、以前話した未知数を1つずつ消去する行為)建物の弾性振動解析する分には、ほとんどのデータは自動処理されますから、容易に計算できます。計算するだけなら慣れてしまえば簡単ですが、やはり奥が深いのです。

一次設計の柱の剛性評価と弾性振動解析するときの剛性評価とは、少し異なります。振動解析は剛性が命、だから実情にあわせて忠実にモデル化する必要があります。例えば柱梁接合部のパネルゾーンの剛性を考慮するか、又は接合部を剛域にモデル化するかで、結果にも影響してきます。このパネルゾーンの剛性評価は、RC造もSRC造も関係し、S造において、柱にH形鋼を使用した場合には誤差が大きく、パネルゾーンを考慮した場合と考慮しない場合とでは剛性が2倍も違ったケースもあると報告があります。また、パネルゾーンだけではなく柱や梁の断面2次モーメントにも注意が必要です。SRC造や高層RC造のように高層な建物においては、鉄骨や鉄筋の影響を考慮して、弾性剛性を計算する必要があります。RC断面のみに対して算出した場合と、断面2次モーメントで2割前後ぐらい大きくなります。また応答値に関しては、実際に計算し、体で覚えておくことが大事です。

これによって、「剛性の影響が顕著に現れる構造は、どのような場合かがわかるようになれば、いうことなし」です。ソフトで言うと、一次設計で使用する一貫評定プログラムは通常の剛性評価をしたものを縮合しています。また、静的弾塑性解析プログラムでは、弾性時においてもパネルゾーンの剛性評価や鉄骨や鉄筋の影響を考慮した剛性を扱えるので、これらのソフトにより、どちらの結果も導くことができます。静的な解析は一回の解析、一方動的解析は何百回から数千回の解析をするため誤差が溜まりやすい。一次設計では、外力(地震時層せん断力)の大きさが、既に決まっており、一方振動解析は、外力の大きさを調べるために、一次設計では、あらかじめ想定した外力を建物に作し、この外力は建物の柱のせん断力となって抵抗します。そのせん断力は、剛性の扱いが異なれば、各柱のせん断力の分配が少しづつ違ってきます。ところが、剛性の評価が若干異なっても、せん断力が逃げてなくなるわけではない。必ず外力とつりあうはずだから、他の柱に移動しただけで、層せん断力としては変わらない。むしろ外力の大きさの方に安全側の設定がされているため、若干の剛性評価の違いによる応力の変化は許容範囲内、という考え方です。ところが振動解析は、この考え方ではない。すなわち、建物に作用する外力(地震力)があらかじめ決まっているのではなく、建物の各層にどれだけの外力(又はせん断力)が作用するかを調べるためにします。

外力の大きさを知る為、そこで剛性の評価が異なれば、建物の固有周期も違ってきて、建物に作用する力も増減してしまいます。一次設計の時、せん断力は消えたりしないが、振動解析の場合は、せん断力の一部が消えたり、又は大きく見積ったりしてしまうことがあります。一次設計のとき せん断力は消えたりしないが、振動解析の場合は、せん断力の一部が消えたり、又は大きく見積ったりしてしまうことがあるわけです。

2.弾塑性
剛性は厳密に評価しなければいけないという点では、弾性のときも弾塑性のときも同じ。よく解らないのは、弾性の場合は、リダクションという数学的な処理が入って、串ダンゴ系にモデル化できますが、弾塑性剛性の場合にはどの様な手順でそれを導きだすのかについて説明します。 図1のように、(RC造柱は)ひび割れが起こるから、ひび割れモーメント(Mc)のところから第2勾配となり終局モーメント(My)後が第3勾配となります。

w-23

第2勾配と第3勾配はどのくらいの勾配というと、第3勾配は弾性剛性の1/1000程度の剛性低下率を考えます。1/100にしたりすると降伏後の耐力上昇が大きくなりすぎたりします。基本的にフラットにするということは、剛性を持たないことになり、するとその部材の塑性率が求められなくなります。だから塑性率を知るために解析上は小さな剛性を持たせます。S造における第2勾配についてもフラットでなく同じことがいえます。この第3勾配の始まる点を、降状モーメントとするか、終局モーメントにするかの判断もありますが終局モーメントにすれば第3勾配はフラット(K/1000の勾配)として考えることができ、降状モーメントとすれば例えばK/20の勾配を持たせるなどの考え方となります。ところが復元力特性の表現上は、どちらの値を採用してもMyと表しているのが多いというわけです。

w-24

図2のようにRC造の場合、鉄筋が降状するときのモーメントを降状モーメントMyと呼びます。その後、さらに耐力が上昇して最大モーメントに達します。そしてこの点を理論式上では終局モーメントMuと呼んでいます。

w-25

第2勾配は図3で示すように、弾性剛性(K)に降伏時剛性低下率(αy)を乗じた勾配とMyの交点Bと第1勾配とひび割れモーメント(Mc)の交点Aとを結んだ勾配となります。降伏時剛性低下率(αy)は式として与えられ、実験により得られた式がRC規準書で示されています。

w-26

柱のモデルとしては、弾塑性部材モデルとして多用されている材端バネ要素となります。部材モデル図を描くと、図4のようになり、それぞれ独立に剛性を定義して、それを組み合わせたモデル、さらにひび割れモーメント(Mc)や降伏モーメント(My)は、部材軸力によって値が変動するということも考慮して算定します。

このように、部材の剛性を精度良く求めることが基本です。この後は2通りの道があり、
①部材レベルの弾塑性剛性をそのまま用いて柱、梁部材で構成する建物全体の振動解析
②部材レベルの弾塑性剛性から、層レベルの弾塑性剛性を導き出し、串だんごモデルに置換してから振動解析

前者を精算弾塑性応答解析法と呼び、後者を略算弾塑性応答解析法と呼びます。評定物件のほとんどは、この略算法が使われています。物件によっては精算法で検証しながら、最終的には略算法で報告書をまとめ評定を取得していることもあります。略算法は整形な建物ではかなりの精度で、しかも短時間で結果が得られるので良く使われています。
また、部材レベルの剛性から層レベルの剛性を導くには、保有水平耐力計算と同等な静的弾塑性解析をすることになり 
この時には、図5のようななめらかな曲線をトリリニア型のモデルに変換しています。

w-27

ここで、層せん断力と層間変位の関係を、トリリニア型にモデル化する一つの方法として、エネルギーを等しく保つ方法があります。この場合には、曲線からはみ出した領域(a面積+c面積)と曲線の内側領域b面積が等しくなるように設定します。

w-28

面積が等しくなるような勾配の組み合わせは多くありますが、一般的には、第1勾配と第3勾配は曲線との接線勾配を使います。特に第1勾配と第2勾配の節点Aは、ある部材が最初に塑性ヒンジになった時の層せん断力を採用することなど考えられますが、この辺は設計者の判断となっています。
h

トップ
next限界耐力計算法

powered by HAIK 7.3.8
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. HAIK

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional